頬に柔らかなものが触れる…

「…ん…」

それがくすぐったくて、寝返りをうとうとしたけれど…身体が動かない。

「ん…」



――― なに…?



そう、口にしたつもりだったけれど、それは音にはならなかった。
重い瞼をゆっくり開けて、ぼんやりする視界に最初に飛び込んで来たのは…燃えるような赤。

あぁ、この赤は
あたしの、好きな…

――― 大好きな色

大切な人の…髪の、色



そのことに妙に安心し、再び夢の世界に導かれるようゆっくり目を閉じる。

「ふふっ…」

けれど、微かな笑い声が意識を留め、夢の世界へ行くのを止めた。

「まさか、もう一度夢の世界に奪われちまうとはね」

「……?」

「もう少し寝かせてやりたいけど、もう限界…かな」

ちゅっ…という音と共に、唇に触れた柔らかくて温かな感触

「さぁ、オレのとこに来いよ…」

今度も柔らかなものが唇に触れた…けれど、今度は中々離れていかない。
ようやく離れたと思ったら、耳のすぐそばからくすくすという笑い声と共に、甘い声がはっきり聞こえてきた。

「強情な姫君だね。…お前が起きてくれないと、目覚めるまで続けちまうよ?」

戸惑いを口にしようとしても、寝起きの頭はすぐには動かない。
だから、今まで自分の身に何が起きていたかも定かではない。
それでも、何をされるのか気になって何度か瞬きを繰り返して、彼を見つめる。

一瞬、驚いたような表情を見せてくれたけれど、すぐにそれは困惑したような…なんともいえない表情に変わった。

「参ったね、起こすつもりが…オレの方が起こされちまった」

「……?」

意味が分からず尋ねようと開いた口は、あっという間に奪われてしまい、音にならない。
今までとは違う、呼吸すらままならない全てを奪うかのような深い口付けに、眠りとは別の方向へ意識が飛びかける。

抱きしめられた腕を緩めて貰おうと伸ばした手は、意志とは逆に…縋るように掴んでしまった。
呼吸のために洩れる息は、朝には似つかわしくない…甘い、吐息。



















「ん…」

「…おはよう、姫君」

「おはよう…ヒノ、エ…」

ヒノエの腕の中で目覚め、手探りで時計に手を伸ばす。

「…あれ、もう…こんな、時間?」

時計の針は、おはよう…という挨拶に似つかわしくない、寧ろ、こんにちは…という方が正しい。

「もぉ…今日は朝からお洗濯したかったのにぃ〜」

動かない身体の代わりに手を振り上げて、ヒノエの胸元を叩く。

「ふふっ、悪かったね」

「…悪いって、思ってないでしょ」

「お前があまりに魅力的な眼差しでオレを見つめてくれるから、つい…ね」

ウィンクしてくれるヒノエがあまりにカッコよくて、照れ隠しも兼ねて彼の胸に身体を寄せると、ちらりと視線をあげた。

「そんなことした覚え、ないもん」

「無意識ってのは、何より強烈…だね」

「そ、そうなの?」

ちゅっ…と音を立てて額に口付けられると、そのまま頬に手を添えられる。

「…今のこの状態も、かなり魅力的だけど、ね」

「ば、ばかっ!!

手を振り払おうにもしっかり頬に添えられているので振り払えない。
仕方がないので、そのままじっとしてると、ヒノエが楽しそうに笑い出した。

「お前はまだまだオレの見たことがない表情を持っているようだね」

「…そ、そう?」

「あぁ…どんな素敵な宝が隠されているのか、これからが楽しみだよ」

そういうと、ゆっくり顔が近づいてきて軽く唇が触れ合う。

「…おはよう、

「おはよう、ヒノエ…」



どんな時でも、あたしの『朝』は
いつもヒノエの甘い口付けからはじまる





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のぉこめんと

…とかじゃダメかなぁ。
取り敢えずヒノエだったら昼夜問わずキスしてると思う…(おい)
起こされたのが何かわかったあなたはオトナです。
寝た子は起こしちゃいけません…ってか、最初っから起きてるけどな。
のぉこめんとだったので、コメントが少ないのです!(笑)